北海道の川を旅する 《後志利別川10 後4/E》
漕
M野氏を先頭に、僕はその後を、我々2艇は後志利別川を流れる。
ゆっくりと川を下っていくと、だんだん瀬の出現率が低くなる。
川の傾斜自体が小さくなっていっているのだ。
そんな川の漕行はヒマそのものである。
『清流日本一』と謳われている川であるが、国交省の調査によるそれは、非常に信頼性が低い。
おまけにいたるところで護岸、テトラが張り巡らされ、のほほんとした気分も徐々にダウンしてくるのである。
水はとっくに、透明感を失っている。
ヒマだ。
遊ばなければ。
で、寝てみた。
トロトロゾーンでは向かい風が吹くと少々つらい。
しかしこの寝転がりスタイルは風の影響を受けづらく、空気抵抗は最小限に抑えられるのだ。
これを名づけて『ジウジアーロ漕法』と呼ぶことにする。
こういうバカなことをやっているうちにもゴールは徐々に近付く。
しかし間もなく、M野氏に試練が襲い掛かる。
僕があまりにも川をバカにしすぎたため、川はM野氏に仕返ししてきたのだった。
再びM野氏と僕の距離が離れたころ、M野氏は右カーブをする川の流れにのって、僕の視界から消えた。
「んっ?」
よく聞くと、ゴーッという流れの音がするではないか!
サイドチェンジを行いながら流れる後志利別川は、前にも書いたように必ず河岸の樹木を何本かなぎ倒そうとし、それに負けじと木もふんばって横向きになって川に張り出しているのだ。
その法則を思い出した僕は、「あ、これはヤバいな」と感じ、すぐさま全速力でボイジャーを進ませて左岸に付け、レスキューロープを握りしめて走り出した。
M野氏は案の定、流れにのったまま横倒しの木が待つ瀬へ突っ込んでいた!
氏にして初めての沈の瞬間が待ち受ける。
僕は緊張したが次の瞬間、木の枝につかまった(これ、やっちゃいけません(笑)ほんの少し残った沈を逃れる確率がゼロになってしまいます)M野氏はやはり艇だけを流れにさらわれ、木の枝にひっかかかるようにして沈!
流され始めた!!
その流される顔のまぁブサイクだったことブサイクだったこと。笑
「ダイジョブっすかー!?」
と僕は笑いをこらえながら叫ぶ。
M野氏がかけていたサングラスが鼻柱の中央部あたりを軸に右上り左下がりのミスターオクレ状態でぶらさがっている。
浅いところまで流され、艇と体を確保した彼はようやく地に足を付けた。
全身びしょ濡れでナナメったサングラス…
人の沈はおもしれぇ。笑々
「携帯は無事だったよ記念で」
とかわいらしいセリフ。
この沈は、あまり熱心に川のことを教えなかった僕に責任があるが、そんなことはどうでも良い。
こんなに笑って面白いのだから!
僕は沈してもドボンしても、基本的にソロ行をしている身では、誰も笑ってくれない。
というか、誰も見てないし気がついていないのである。
これは、非常に淋しい。
こんな所には、つっこんだらダメなのである。笑
ラストダラダラ
今金町のループ橋が見えた。
ゴールまではあと2キロぐらいであろう。
沈したM野氏は、しきりに「ゴールまだかー」と聞いてくる。
沈は、非常に疲れるのだ。
しかし川がトロトロなら、ダラダラ下ってやるのが礼儀である。
途中あちこちに寄り道し、真上からカミナリにやられたのか?みたいな木を発見したり。
最後の橋をくぐり、間もなくこの川下りは終了したのであった。
初めて2艇での川下り。
人の沈。
女子妄想話…
女子妄想話は、川に対する関心度もそこそこに川下り中も延々と続けられた。
かえって良かったのかもしれない。
年々、いじられていくこの川の景色から目をそむけるのには、丁度都合の良い夢中度合いになる会話であった。
それにしても。
あれやこれやと妄想は繰り広げられたが、実際にその内容のような事は一切、起こらないだろう。
ひとまず、次の川下りはソロにしよっと!
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