これは前出の物件で余儀なくされた休日出勤の代休日なのだ。
3連休を不安な気持ちのまま迎える。
その僕を迎えるのが道南で唯一の一級河川である後志利別川だ。
こんな精神状態ではイケナイと、自然に力を借りることにしたのだ。
僕の一番のエサは川下りである。
過去、何度も下ったやさしい川に助けを求めた。
しかしこの不安定な気持ちをもって現地へ赴いたはいいが、右往左往しやる気をなくし、結局はたいしたことをしない旅となった。
その弱りきった精神状態が生んだ、テンションの低い川旅を記録する。
晴れない心で晴れた場所へ
札幌から約180キロ、相棒のファルトボート”ボイジャー”を積み南西に進む。
美しい山容の羊蹄山を見ても、広い太平洋を眺めても、考えることはやはり仕事の事だ。
僕はこのon/offの切り替えがうまくできない。
途中の長万部で買出しをしようと計画。
スーパーを見つけたかったがなかなか良さそうな店が見つからない。
長万部をぐるぐる回って、結局入った店も中途半端な買い物しかできず、結局宿営地となる今金まで買い物をあきらめる結果となる。
デカい顔をして利別川を真ん中で堰き止めているピリカダムは、相変わらず少しの水も放出していない。
その下流側、今回下ろうと思っていたのは堰き止められた水が戻るエリアで、今まで下ったことのない区間だ。
スタートに設定したのは『新花石橋』たもと。
ここから今金市街までは約10km強の道程だ。
新花石橋たもとのスタート地点に降り立ち、ポイントの確認を行う。
草むらの途切れ目から、比較的早めの流れが見えた。
この時ばかりは心が晴れる。
あぁ、川の流れのように…
というよりは冒険前の興奮が僕を包む。
そして、ソロである。
ソロの川下りでは、死のうが生きようが誰も止める者はいない。
まったくの自由だ。
草むらにボイジャーの入ったバッグとパドルを置き、今金市街を目指して出発した。
そして食料の買出しを済ませ、住吉橋付近の野営地点まで再び上がり、そこからスタート地点の新花石橋まではおりたたみチャリでの行程を考えていた。
テントを張るのに、住吉橋付近のA地点かB地点かで迷う。
A地点は小砂利の川岸、B地点は一枚岩で、いずれもキャンプ地のロケーションとしてはハイレベルである。
B地点をうろうろしていると、地蔵が祀られている祠を発見してしまった。
沈んだ気持ちには、その場所を回避するのに十分な理由だった。
マイナス要因が僕に働き、キャンプ地をA地点に定めた。
テントを張り、ビールを出し、買ってきたトンカツ弁当をほおばる。
ふと上空に猛禽が飛んでいる。
あの翼の細さ、白さは…ミサゴではないか?
携帯のカメラではほぼ姿をとらえられない。
ミサゴは海岸に多い鳥である。
川沿いに上がってくることもあるらしいが、ここはかなりの内陸だ。
悠々と滑空するその姿に、しばらく見とれていた。
ふと我に戻り、ある事に気がついた。
このA地点、ロケーションは素晴らしい。
ヘビが川を泳いで渡る。
ついつい追いかけてカメラでパチリ。
しかし、そんな自然豊かな場所であったが、川をはさんで目の前の山が迫る。
その森の方角は西だ。
つまりこの場所は、日没が早い。
「あ…失敗した…」
沈んだ気持ちを太陽に照らされて回復させたかったのである。
「地蔵より太陽だ。」
そう決めて、いったん出した荷物を再びクルマに詰め込む。
目指すは地蔵のお膝元、B地点である。
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