2011 夏至の旅 05

2011年10月23日 22:04

沈した後は、体も冷える。
小便を放った後の『ブルルッ』の振幅も更に増すのであった。

この川行自体の距離は約15km強である。
このションベンポイントでは、約半分程度の距離を下り、ちょうど中間点あたりと思われた。
まだ歴舟橋は越えていない。

前半。
僕の顔は常に笑顔で、川に流されながら泳いで遊んだり、酒を飲んだり。
寿司を食って大笑いし、沈しては真剣に対処したり。
この充実した川下り時の行動はすべて、太陽の存在が背景にあった。
日差し・温度の影響というのは、心身ともに大きい。

 

しかしこの時、太陽は姿を隠しつつあった。
寒さが襲い掛かってこようとしていた。
午後になると徐々に海からの風が増してくる。
歴舟川はある程度蛇行しながらも、おおむね海岸線と垂直をなすように流れているので、我々は真正面からの冷たい海風を受けることになるのだ。
過去の体験からも、午後からの川下りはこの海風と天候の変化にやられて寒さを味わう可能性があるのはわかってはいた。

しかし、僕の格好は『半袖』であった。
過去の経験からの学習が、ひとつもなされていない形である。
僕は、スタート時の天気のよさにすっかりうかれたノーテンキ野郎、という事だ。

ゴール、つまり海に近づくにつれ、太陽を隠し始めた雲に加え、冷たい海風が吹き、更には霧まで発生してきている。
こうなったら、常に濡れた状態にある両腕は、常に気化熱で冷やされ、どんどん冷たくなってくる。
ふだんは風を愛する僕も、この種の海風は苦手だ。
つらい。
寒い。
腕を水中に漬けると暖かさを感じるほどであった。

 「まだか…」

いつもは川下りをしながら交わされる僕とM野氏とのエロ話も形を潜めている。
そんなトロピカルな気分じゃあないのだ。

長袖を着たM野氏ですら寒さを頻繁に訴えてくる。

 「あとどのぐらいで着きそうだ!?」

しかしまだ先は長そうである。
どんよりした空の下、僕たちはようやく歴舟橋をくぐった。
ゴールまではあと6kmちょいといったところか。

 「頼む。俺らを早く河口に運んでくれ。」

下流域に達しても流速がさほど落ちない歴舟に、妙な感謝の気持ちが生まれる。
しかしそれでも時間にしておよそ1時間弱を、風通りの良い川の上で過ごさねばならない。
まさに拷問である。
内緒にしている性癖を言えば許してやると言われたら、即回答してしまうほどの辛さなのであった。

寒さによって会話は最小限にまで落ちてきている。
しかし悪いことばかりではない。
蛇行部分の内側が林になっている場所があり、その中の枯れ木にデカい鳥が!
オジロワシに違いない。
ふだんよく見る猛禽のトビとは比較にならないほど体が大きい。
バックスイープを入れてゆっくりと眺めたかったが、生身の体とは思えないほど冷たくなった両腕がそれを許してくれなかった。
先を急ぐ。

海は、まだか。
海岸に張りっぱなしのテントが恋しい。
ものすごい恋しさだ。
川から上がって濡れた体を拭き、サラサラの服に着替えて、湯を沸かしあったかいカップ麺を食うのだ。
冷たい川の上で見る、ほんのささやかな夢だ。
これほど小さな夢なんだから、許して下さい。。

海に近づくにつれ、どんどん霧が濃くなる。
波の音かと思えば、まだまだ続く瀬の音であったり、ヤキモキしてしまう。
霧で視界が非常に悪く、なかなか海も確認できない。
おそらく海を確認できた時点で即ゴールなのである。

歴舟最終部のプールに入ってきた。
体の芯まで波の轟音が響く。
間違いない、あの霧の向こうには海が暴れているはずだ。

 

左岸へ左岸へ漕ぎ進む。
海への注ぎ口は狭く、速い流れになっている。
もし岸につけることができなければ、そのまま海まで運ばれ、2メーターの波の餌食となるに違いない。
小砂利の丘を強引に裂いて流れる歴舟。
強引にフネを岸につけて上陸する。
1メーターほどの垂直に切り立った小砂利を壊しながらよじ登り、フネは長めのロープで曳く。
もう少し下流の、条件のよい場所から確実にフネを上げる作戦だ。

2艇のフネを無事に陸に上げ、ひと安心である。
しかし、寒さが和らいだ訳ではない。
すぐに体をドライ状態にしないと、いい加減風邪っぴきになってしまうだろう。
この時、もう僕は寒さと疲れでボロボロになっていた。

 
  BEFORE



 
  AFTER

昼食時からわずか2~3時間。
人は、変わるものだ。


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