「沈か!?沈か!?」
半分ニヤけてその姿を目で追っていた。
しかしM野氏は僕の淡い期待を全く裏切ったのである。
水面上に伸びた木の幹を、それこそリンボーダンスよろしく、上体を反らしてくぐりぬけてしまった。
楽しそうである。
僕もリンボーがやりたくなってきた。
「ウッ!!」
掛け声も勇壮に(そうか?)、溜まっていたエディを上り、本流に刺さろうとした。
しかし、エディを漕ぎ上がる前に本流に飲まれた。
「あぁっ、イカーーーーン!!!」
ストレーナーの三角形に対して、もっともとってはいけない姿勢、”フネ横向き”で突っ込むことになる。
フフッ、しかしここからが腕の見せ所である。
華麗なパドルワークでこう…
気がついたら、世界が青かった。
気がついた瞬間、恥ずかしさで顔がゆがむのがわかった。
沈脱して、水中から上を見てみたら、むなしく転覆したボイジャーのコーミングが見えた。
「あぁ、なんという…(T_T)」
沈したのだ。
三角形に対して思い切り横向きに当たってひっかかり、水流で押されてひっくり返ったのであった。
歴舟で初の黒星だ。
黒い腹を見せるボイジャーにつかまり、流されようとする。
「大丈夫か!?」
人の沈を初めてみたはずのM野氏が心配顔で声をかけてくれる。
しかしこっちは、恥ずかしさとかっこ悪さと悔しさで胸がいっぱいである。
人にレクチャーしといて自分が沈しているのだ。
(;´д`)。。。
こんなカッコ悪いこともなかなかなかろう。
しかも、新しい問題が発生していることに気がつくのに、そう時間はかからなかった。
僕が沈してフネと一緒に流された場所は、流れに対して袋状になった渕。
けっこうな深さがあり、平岸でもTOP5に入ると言われている高身長の僕でも足がつかない。
岸は、切り立った岩が高さ2メートルほどそびえる。
岸には上がれないというワケだ。
本流は、けっこう強めの水流である。
つまりこの渕は、それ自体がエディとなり、その水流は洗濯機のようにぐるぐると回っているのだ。
僕はすなわち、洗濯物状態なのである。
何度も何度も岩を蹴り、渕からの脱出を試みるも、本流には入れずに洗濯水流の中から出ることが出来ない。
「クッ・・・」
フネは捨てることにした。
渦中から槍を投げるようにフネを本流に押し出す。
仲間がいて助かった。
フネはM野氏がピックアップしてくれた。
しかし残念ながら、フネに積んでいたレスキューロープは流されて行った事を確認している。
ロープで引いてもらうことは不可能、自力でこの渦流から出なくてはならない!
このときの僕の状態は、まさに流れ切れなかった使用済みトイレットペーパーである。
バカみたいにプカプカ浮きながら、同じところをグルグルと回っている。
あぁ、恥ずかしい・・・
一時も早くこの流れから脱出しなければ!!
潜水して中から出ようかな?とも思ったが、ウェットにPFD、浮きまくりである。
なんとか本流に対して垂直の体勢をとり、えぇーーーーいと渾身の力を込めて再度岸の岩を蹴ってみる。
やった、出た!!!
やっと出た!!!
本流に洗われ、少し流されてようやくこの渕から脱出した。
非常に情けない表情で川原に上がったことは、言うまでも無い。
上から下までズブ濡れ、フネの水抜きを悲しい気持ちで行った。
ついさっきまで、こんな顔して幸せ満天だったのに。
しかし冷静に考えると、これは僕の好きな単独行では非常に危険な状態であった。
二人で良かった、助かった。
気を取り直して再出発。
M野氏は案の定
「人に指導しといて、自分が沈だぞ!?」
と笑い僕をいじめた。
あぁ、体が冷えた。
小便のため、ほどなく川原休憩をとった。
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