北海道の川を旅する《歴舟川 9/E》

2009年11月03日 01:23

 ゴール。太平洋

ついに、ここまで来た。
波の音が轟く。
今までとうとうと流れていた歴舟川も、ついに流速が落ちる。
陸からの河岸の景色になんとなく見覚えがある。

 「この場所で間違いないんだ…」

知らない道を通った後に見慣れた場所が見えたとき、『あ、ここに出るんだ』と思う感覚と同じだ。

しかし、違う。
明らかに違うことがある。
その違いに、僕は早くも恐れをなしていた。

あのキラキラした美しい河口はどこへ!?
太平洋が、怒っている。

恐ろしいほどの高波が、河口から逆流を作っているではないか!!

 

 「えええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ( ̄◇ ̄;;;;;;;!!!!!」

恐い!ものすごく恐い!
夕べの熊の心配ごとき恐ろしさの比ではない!

ただ、ゴールを決めていた場所に向かうには、この河口をかすめて左へ、左へと進まねばならない。
当然、カヌーは横っ腹を海に向けなければならないわけで…

さっきまで考えていた、"感動・感激のゴール"はこの時、一切頭には無かった。

 「生きて戻らねば…」

頭には、それしかなかった。

河口に作られたプール。
歴舟が作ったプールである。
僕は、その歴舟に守られながら、心細く左岸を目指した。

 

太平洋はさしずめ、アル中の暴力親父(しかも再婚ね)である。
歴舟川は、病弱ながら暴力に耐えている母親だ。
この頼りないほど小さい小舟に乗った子を、必死に守ってくれている。
このプールは母親の腕の中なのだ。

 

親父の暴力はますます猛威をふるう。
僕は母親に守られながら逃げ口をうろたえながら探している。

いいだけ進んだ左岸限界エリアに、ようやくフネをつけられるポイントを見つけた。
一昨日下見した時に感激した、透明なプールはウソのように濁っていた。
高い波によってあわ立ち、流木がゴロゴロと浮いている。
そこをボイジャーの舳先が割って入る。
パドルが流木に当たって思うように進めない。
波が砂丘を越えて押し寄せる!

 「ヒィィィィッ!!!!」

泣きそうになりながらなんとか岸にたどりついた。
しかしこのままでは太平洋のパンチにKOされる!
あせる。
とにかくあせる。
早く降りなくては!
慌ててカヌーから出ると、

  ドボン!!

岸はドン深になっていて、汚い水の中、足がつかない。
さらにあせる!
泡と木くずまみれになってもがきながら上陸、すぐさまボイジャーをたぐり寄せる。
その間にも親父の怒鳴る声が響き渡る。

  ゴゴゴォォォーーーーッ…

もうホントに泣きそうだ。
砂丘を越えてきた海水が、足元を流れる。
波高は、恐怖も手伝ってか3メーターぐらいに見える。

 「もうやだ~~~…」

まずは積んでいた荷物を取り出して、全力で浜の小高くなっている場所目指して走る。
次はボイジャーだ!

 

 「待ってろ、今助けるからな!」

なんて言いながら写真を撮ってる僕。
ネタ魂としか言いようが無い。

ボイジャー救出成功。
ここまで終えて、やっと一息つく。

さすがにここまでは波も届かないだろう。

ひとまず荷物を持ってクルマの元へ。
最後の最後にびしょ濡れ、小汚くなった全身。
一式着替えをした。

ボイジャーを乾かしながら解体する。
着替えをしているうちに、波は更に高くなった。

 

解体作業している場所の3メーター先にまで波が押し寄せるようになってきたが、もう、こっちのもんだ。


歴舟川の川旅は、激しい家庭内暴力のような絵の中で終了した。
全てを終えると、やっと満足感が出てくる。
しかし、温かい服を着ても、クルマを走らせても、しばらく恐怖は納まらなかった。

なんだかこの川旅。
逃げ帰るような川旅。

来年なら、たとえ海が荒れていても、もうちょっと余裕を持てるだろうか。

出発点にデポジットした折りたたみチャリを拾い、僕はクルマを札幌へと走らせた。


 - 完 -


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北海道の川を旅する《歴舟川》 あとがき
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物事の印象というのは、第一印象から始まって事後に思い出して考える印象まであります。
歴舟川。『なんか、ちょっと恐い』
しかしながら、道中は愉快で爽快で仕方なかったのです。
その証拠に、帰宅後に顔をよ~く見てみたら…
顔の日焼け、目尻の笑いジワによってシマシマ模様となっておりました。
100%楽しめる歴舟を夢見て、来年もまた、この川を下るんだろうなぁ。
僕の腕にはちょうどいい、そんなに激しくない美しい川でした。

成績:ノー沈、2回ドボン。

この翌日から、舞台を積丹の海に移して、僕はシーカヤックで遊んでくることになるのです。

旅、遊び、大好き!!(^◇^)

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