北海道の川を旅する《歴舟川 8》
歴舟橋へ
ゴールへ向かう漕行となる。
最終日。
「前日別れたAさん親子は5日間を川に費やせるんだ…いいなぁ…」
うらやましくなる。
今日、河口まで下ってしまうのがとてももったいない。
まずは歴舟橋をひとつの目安にする。
1/25000の地形図で距離感をつかむと、昨日から変わらず美しい流れにバウを差し込んだ。
川全体から考えると、もう下流域でもおかしくはないが、かなりの流速がある。
ジャンジャン瀬も出てくる。
ある一級の瀬の下で、「魚写らないかな…」と思い水中を撮影してみた。
期待通りにはいかなかったが、非常に美しい水中だ。
どこに行っても川底の石が見える。
白っぽい川石がけっこう多い。
水が透明でこういう色の川床をしている川は、陽の光りを浴びると、美しいブルーやエメラルド色で輝く。
そんな中、パドルを川に差し入れて旅をしているなんて最高じゃないの。
とてつもなく広い玉砂利の川原が次々に現れる。
玉砂利の川原の中を流れていると言った方が良いかもしれない。
気温が少し低いが、少し日差しもあり快適。
人工の水制に、メインカレントが正面からぶつかっている場所があった。
後でここを通るであろう、タンデムのAさん親子が少し心配になるが、きっと問題無くライニングダウンでよけられるだろう。
歴舟川の、下流らしくない早い水流に運ばれ、予定より早く歴舟橋に到着。
橋の下流左岸にフネをつけて一時上陸し、お茶を飲んで休憩した。
海
歴舟橋より下、歴舟川に橋は存在しない。
ほぼ、文明とは隔絶された約10キロの区間をこれから流れていくのだ。
目指すは一昨日見た、あのキラキラした河口!
愛車も待っているだろう。
『川の終点”海”を見る…』まだ、これをやったことのない僕にとって、河口の魅力は無限大なのだ。
パドルを持つ手に力が入る。
期待に満ちる顔からは力が抜けていく。
「待ってろよー太平洋!!」
少し行くと、河原にキタキツネが現れた。
じっとこちらを見ている。
20メートル、10メートル、8メートル、7メートル…
5メートルほどに距離が近付いた時、そのキタキツネは途中振り返りもせずに猛ダッシュして薮に消えた。
川のど真ん中に巨大な流木が、流れに沿うように横たわっている。
当然、倒れているのだけれど、高さがゆうに3メートル近くある。
横向きなら危険なストレーナーだ。
歴舟が暴れた時、この大木もやられてここまで運ばれたのだろう。
瀬がまだまだ続く。
一級の瀬にはもう慣れた。
余裕をかまして操船無しに流れのままに突っ込むと、隠れ岩に船体をすくわれた!
傾きにギリギリのタイミングでなんとか艇を立て直して沈を免れる。
「あっぶなー…」
ナメてるとこういう事になるのだ。
しかし、まだか。
水はどこまで下っても澄み、美しさに変わりは無いが、続々と瀬が現れ、下流らしさが微塵も感じられない。
「あぁっ海だ!」
はるか前方に灰色の水平線を確認したのは、なんとまた瀬の途中であった。
分流が多い。合流も多い。
どの流れも太く、漕行にはどれを選んでも問題はなさそうだ。潮の香りが漂ってきた。
もう、ほんの少しで歴舟が終了するのだ。
できるだけクルマを停めた左岸寄りに進む。
川は流れ、行き着いた場所でこの旅は終了する。
海という巨大な存在に包まれるように、旅は終わっていくのだ。
感動的なフィナーレが、訪れようとしていた。
ストーリーは、僕の頭の中で出来すぎていたのである。
しかしこの後、最後の最後に、自然がするどい牙を見せ付けることになろうとは…
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