北海道の川を旅する《歴舟川 5》

2009年10月04日 23:46

 中流の流れ

歴舟川は日高山脈を源とし、途中ヌビナイ川、歴舟中の川などの清洌な流れを迎え入れ、大樹町だけを流れる清流だ。
その流れの中ほど、名艇ボイジャーとともに僕は下っていた。

思わずため息が出るほどの美しい流れ。

 「うわぁ…」

しばらく行くと左岸側は切り立った壁となる。
片側だけながら、感動的なゴルジュ帯だ。

 

岩肌には無数の流れが落ちる。

 

何度も行ったり来たりしながら、この景色を目に焼き付けた。

 

ふと後方でバシャシャッと音がした。

 「鮭だ!」

時期的に淡い期待をしていたが、思いがけない出会いにまた感動する。

カナディアンが一艇、僕を追い抜いて行った。

あまりの美しさに、川の水を飲んでみたくなり、手にすくって口に運ぶ。
水だからなんて事はないけど、特別なものを口にした気分になる。
(あまり真似しないようにね)

 

川底の石だってすべすべだ。
これがダム無し川のチカラなんだ。
水量はファルトの漕行にはやや少なく、何度か腹をこする。
得意技のライニングダウンも、めんどくさいがこれだけ水が綺麗だと気持ちがいい。

早くも僕の今までの川下りを、歴舟川は凌駕していた。

断続的に続く一級程度の瀬、その中で一段と激しい音が聞こえた。

広かった流れが右岸側に寄って集まり、太い流れとなり力を増しながら左カーブを作っている。
その中に少しキツい落差があって、短いけどなかなかパワフルな瀬だ。
やっかいな事に、少し上で別れた流れが、この瀬の真ん中で右側からパンチを打ってきてる!

 「よっしゃ行ったろやんけー!!」

WW指向じゃない僕にも気合いが入る。

流れ以上のスピードを保ち、艇のコントロールを失わないようにする。
バウ右側をパンチが襲う!

 「負っけへんで~!!おらおらおらおらぁー!!」

体重を右側に移しながら防御。
パンチはかなり強く、飛沫(と言うか、水のかたまり)が艇内にゴボっと入った。
空中に浮かんでいる水のかたまりを見るのはおもしろい。
それがびしゃっとコクピットに入ってくるのだ。

この名もない瀬をクリアし、思わず声を出して笑う。

 「イヤッホォゥ!最高!」

それ以外に、何て言えばいい?


 再会

瀬遊びを何度か繰り返し、歴舟をゆっくりと進んだ。
前方右岸に高く上げられたサオが見える。
川の中で初めて会う釣り人だ。
その向こう、河原に座っている二人が見えた。
先行していった親子連れのお二人だ。
向こうもこちらに気付き、立ち上がって手を振ってくれる。
岸に近付くと、へさきを持って上陸を手伝ってくれた。

 「今日のキャンプはここにされたんですね!^^」

 「大樹橋越えないあたりでね。」

僕もちょっとおじゃましてビール休憩だ。
ちょうどAさん(とする)親子は昼食の準備中だった。
ここいらで調理用の焚火を囲んで川談議である。
聞けばかなりの本数、川下りをされているそうだ。

 「今年は少ないねー、まだ3回目だもの。」

う、うらやましすぎる…

北上川でフネを流された話は面白かった。
元盛岡の住民だった僕には、面白いように情景が浮かぶ。
ダムの放水情報を調べていなかったため、岸に上げておいたフネが、買物に出たスキに流されてしまったらしい。
戻ってきたその瞬間、フネが流れていくのが見え、途方にくれたと言う。
下流で拾ってくれた人がいて、なんとか艇はなくさずに済んだとの事だった。

僕だって同じミスをしでかす可能性がある。
川の防災情報は川パドラー必須だ。

僕は今まで誰にもカヌーを教わった事がない。
今までやらかした失敗の上に、僕の川下りスタイルを徐々に打ち立てて続けている。
当たって砕けろ的な挑戦の、今まだ真っ最中なのだ。
今回、フネを流す失敗を自分ではやらずに、ひとつ勉強をさせてもらった形だ。

 「またいつかどこかで!」

初めて川下り仲間みたいな意識が生まれた、良い体験だった。
僕の出発を、Aさん親子はいつまでも手をふって見送ってくれた。

さあ、次は僕が昼飯を食べる番だぞ。


それにしても彼らのカヌーの船体にあった野田さんのサイン、羨ましかったな…


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