四国の川を旅する《仁淀川 5》

2018年09月05日 23:46

SUPグループからあらん限りの注目と期待を受けた僕は、ちょっと納得のいかない気持ちでボイジャーに乗り込んだ。

 「よしゃ行ったるぜ!! ホントはイヤだけど…」

いよいよ放水口の瀬、早い流れに支配されつつ左岸コースにエントリーした。
岩がらみのスラロームに隠れ岩のでかいウェーブ、精一杯のパドリングでこなしていく。
こういう時は流れに任せてはいけない。
バウが何度も水面下に突っ込む。
スカウティングで確認できた範囲がそろそろ終わろうとした時であった。

 「アッ!!( ̄Д ̄;)」

見えない。
落ち込みである。
視線が低く、流れの中で不自由なカヤックである。
落ち込みの先は見えず、見えないからと言って止まることもできない。

 「事前にわかってたら見栄は捨てて回避してただろうな…」

笑う。

笑うしかないではないか。

 「ウハハハハ!さあ行くぞ!!」

僕が入った落ち込みは激しい勢いの流れの中で1メーターはゆうに超える段差があり、更に良くないことに左側に大岩が偉そうに鎮座している。
その大岩のたもとからもパンチ力十分の水流が向かってきている。
格闘技なら2人を相手に、カカト落としと左ストレートを同時に食らう状態だ。

 「がんばれボイジャー!!」

膝の横をピタリと艇体側面に付け、足を思い切り踏ん張る。
ボイジャーと一心同体になって突っ込む…

よく覚えていない。
大量の水をかぶりながらありったけの力でパドルをかき回していたはずだ。
気付けば目の前には自然なダウンストリームVが待ち受けている。

切り抜けたのだ。

白波が立つがクセのないダウンストリームVの中を漕ぎ抜け、ものすごくホッとしつつようやく我に帰った。

 「あ、SUPさん達は…」

全員こちらを見て、拍手&ガッツポーズしてくれていた。

 「あ、ありがとう!!( ;∀;)」

でも、君らさえいなければこんな危険なトコロ突っ込んでないよ?

指導者欠格と思われる人が、自分の頭を指差してアピールしている。
僕に”ヘルメットしなきゃダメだ”と忠告しているのだ。

 「お、お前が行け言うたんやないかー!!」

そんな忠告を、全く返答になっていないガッツポーズ&笑顔で流し、アホンダラとつぶやいた。

わかってますよ、激しいコース行く時のためにヘルメットは持ってます。
でもファルトだから、そういうコースには行かないのよ、ふだん。
なのでこの旅にはヘルメットは持ってきていないのよ。
のんびりビールを飲みながら下ることを目的としてやってんのよ。

しかし他人に背中を押されたとはいえ、ノーヘルで危険箇所にアタックすると決めたのは自分だ。
ダメならケガするか、命を落とすか。
そういうつもりでやっている。
そうなったらそうなったで、自分の技術がそれまでだった、それだけの話だ。
結果は、自分の好きでやっていることの延長上にある事なのだから、いつでも受け入れよう。

というところまで考えている。

これを危ないからとルールを作って着るものまで制限している人達がいる。
僕はそんなものにとらわれたくないので、そういう人達とは行動を共にしない。
自分が楽しいと思うことを、思うスタイルでやる。
もし技術が足りなかった時のために、保険にだけは入った上で自由を楽しんでいるのだ。

楽しみ方が、根本的に違うんだよ。

仁淀川はすっかりおだやかな表情を見せ始めていた。




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