北海道の川を旅する《2010年の十勝川 1》
2010年8月28日朝。
僕はひさびさに、カヌーの入ったザックをカートに乗せ、ソロキャン用の道具を詰め込んだ重いリュックを背負って家を出た。
「あぁ、歩くのきつい…」
前回、電車スタイルでの川旅を行ったのはもう3年前になる。
今は体力も落ちているだろう、でも行かずにはいられない、十勝川に呼ばれている気がするのだ。
自宅近くの平岸駅から地下鉄に乗り、札幌駅へ。
ビールとサンドイッチを買い込み、帯広行き特急電車に乗り込む。
これから僕は3年ぶりに、十勝川を旅するのだ。
目指すは前回と同じ十勝清水。
駅から川への距離、買い物の便利さから言ってここは十勝川の出発地点として最も良い場所だと僕は思っている。
『おはようございます、こちらは車内販売・・・』のアナウンス流れる車内。僕はすでに飲酒中である。
車窓から景色が飛び込んで来ては素早く後ろへ流れていく。
川下り。
川旅をするという事で、今回、心にひっかかっている事があった。
歴舟中の川、東京理科大ワンゲル部員の死亡事故。
石狩川での、ホワイトウォーターさん達の死亡事故。
これらの事故があって間もない。
気にしたくなくても、気になってしまう。
僕だって死ぬかもしれないと、漠然と感じていた。
電車は順調に走り、十勝清水駅に到着した。
駅前のスーパーで食料の買出しを行い、タクシーに乗り込む。
運ちゃんとの会話でも川での死亡事故の話題が出て、僕は恐らく翳りの表情を見せていたことだろう。
ただ、
「こないだの豪雨でさ、2,3日前まではねぇ、水も恐ろしいぐらい多くてね。
川も真っ黒になって流れてたんだけど、昨日今日は落着いてきたねぇ。」
という運ちゃんからの情報には少しホッとした。
しかし、タクシーが出発地である上川橋にさしかかると、その思いもわずか数分でかき消された。
ひと目十勝川を見た瞬間、
「ああ、これは死ぬかもしれないな」
という思いを沸かせるほど、全く爽やかさの無い顔を十勝川は見せていた。
あまりに不機嫌そうな表情を浮かべる十勝川。
だがそれだけの理由では、自分に対してツアーを中止する言い訳にはなるまい。
水量はそんなに極端に多いわけではなさそうだ。
橋から見える瀬も、前回とほぼ同じクラスにとどまっている気がしたが…
(後になって見ると、全然違うのね。^^;)
自己責任における自由の世界。
死にたきゃ勝手に死ね。の世界だ。
ただしそれは川が美しくても汚くても同じ事。
どうせ死ぬなら闘って死んだ方がいい。
でもそう簡単には死なんけどな。
生きて帰るぞ!!
ボイジャーを念入りに組立てるが、今回は闘いに対して不利な条件があった。
我がボイジャーは、一部機能が不十分な状態なのだ。
両サイドに気室を装備している艇なのだが、そのエア注入チューブが破損しており、口が開いてしまっている。
エア自体は入るが、時間とともに抜けてくるのである。
従っていつでもエアを注入できるように、ポンプをコクピット内に入れての出発だ。
少しぬるくなったビールをボイジャーの舳先にかける。
次は僕だ。
そしてその次は十勝川。
濁った水面にビールを注ぐ。
「今回もよろしく!楽しませてくれよ!」
全ての準備が整い、出発だ。
いきなり1級+の瀬が出迎える。
ストリームイン後のアタックを目論むが、本流の流れが強く河岸はドン深になっているためエディを発生させておらず、
思う場所まで漕ぎあがれない。
「クソッ!!」
流れに負けたボイジャーは、横向きの状態で瀬に入って行く。
瀬の中で艇を回さなければならない。
ボイジャーは直進安定性に優れた艇だ。
つまり回転性能は高くない。
しかし波の中にいればキールがどっぷりと水面下に入らないために、やや回転しやすくなる。
もちろん、それまでに沈をしなければ、の話だ。
瀬から外れないようにターンしながら体勢を整える。
ここを何とか乗り越え、思わずヨッシャと叫ぶ。
顔に笑いジワが寄ってるのがわかる。
空が広い。
川下りのスタートだ。
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